初のB to Cプロジェクト!知財は信頼ある外部パートナーと連携
シマ株式会社は、官公庁向け一般ゴミ処理プラントの設計施工、メンテナンスまでを行うエンジニアリング会社です。
最近では、地球温暖化問題に対する貢献ができないかと議論を重ね、B to C製品である家庭用生ゴミ処理機「パリパリキューブ」シリーズの製造・販売も手がけています。
今回は、このB to C事業の功労者である商品開発部 開発研究チームの来見 幸太郎(くるみ こうたろう)さんにインタビューしてきました!
インタビュー
1.来見さんの経歴
特許庁:来見さんの経歴、現在の御担当業務を教えてください。
来見:シマ株式会社(当時:島産業株式会社)への入社は2007年です。
それ以前は半導体関連企業にいたのですが、大学で専攻していた機械工学に携わりたいという思いで当社に入りました。ちょうどB to C製品の開発を本格化していこう、という時期です。
また、現在は商品開発部で家庭用生ゴミ処理機「パリパリ」シリーズを中心としたB to C製品の研究開発に従事しています。
当社の部門は大きく言えば、祖業であるプラントエンジニアリング部門と、B to C製品の開発に特化した商品開発部門に分かれているのですが、私は一貫して後者の業務に当たっています。
商品開発部は開発研究チームが4名、営業チームが2名、私の上司の部長が1名の合計7名の部署で、私は開発研究チームのプロジェクトリーダーという立場です。
2.B to C製品リリースへの挑戦
特許庁:御社初のB to C製品である「パリパリキューブ」がリリースに至るまで、相当大変だったのではないでしょうか。
来見:そうですね。実は、入社当初にあった基礎研究内容は、今の製品群には生かされていないんです。
入社当初は生ゴミの水分を遠心分離で除去する機構で製品化を目指していましたが、容積が相当大きくなってしまい、また音や匂いにも課題があって一般家庭には受け入れられませんでした。
そこで、生ゴミを温風でパリパリに乾燥させる現行技術を新たに開発することになったんです。
入社してから2013年の初めての製品リリースまで多くの時間と資金がかかり、その間、商品開発部として売上がない状態でした。
会社としては比較的チームのペースを尊重して自由にやらせてくれていましたが、個人的には売上を出せない中で給料をいただく申し訳なさを感じていましたね。
待望の初号機も、ブランドネームが弱く販路も限られていましたから、今に比べると全然売れませんでした。
社長も全然満足はしていませんでしたので、初号機の発売後、すぐに次の「パリパリキューブライト」の製品開発に着手しました。
この開発は先代社長と一緒に会議室でホワイトボードを使いながら、日夜議論してブラッシュアップしました。
結構細かく拘って設計できたので「これは売れるんじゃないか!」という期待で意匠権も取得しました。
実際このモデルは結構売れて、認知度が広がりました。
特許庁:デザインまで社内で創作されたというのはすごいですね!次のモデルはどうでしたか。
来見:「パリパリキュー」の販売開始は2020年4月で、ちょうどコロナ禍に差し掛かっていました。
それまでは月に1回は製造拠点である中国に出張していたのですが、急にオンライン中心の打合せになり、最初は勝手が分からず苦労しました。
しかし、その苦労の甲斐もあってパリパリキューはグッドデザイン賞を始め多くのデザイン部門の賞をいただくことができ、売れ行きも好調です。
3.知財業務との出会い
特許庁:来見さんはプロジェクトリーダーとして、知的財産に関する業務も担当されているのですよね。
来見:はい、特許や商標などの出願業務を担当しています。
具体的には、特許を取る際は社内での議論を経て、弁理士と相談しながら進めています。
弁理士への相談に際しては、私含め開発担当者が、開発の中でブレイクスルーできたポイントを設計・試験の段階で書き留めて社内資料として記録しておいたものを、最終図面と記録資料をお付き合いのある地元の弁理士にお見せし、どのように権利化していくか相談する形です。
メーカー出身の弁理士で機械に強い方なので、私たちの希望をスムーズに具現化してくれます。
また、当社の方針として、プロジェクトリーダーには製品開発から量産立ち上げ、生産管理、品質管理まで大きな裁量をもって任されます。
その中に知的財産の権利化もセットであり、これら一式でお仕事なんです。
会社としても、「開発担当者に最もその思いが乗るだろう」という前提があり、もし本人の表現力や伝え方が甘くても弁理士がしっかりフォローしてくれるという信頼があります。
私たちが開発した技術に対して特許を取るべきかどうか、最終的には経営トップに相談して決定します。
特許庁:知財に対してどのような期待がありますか。
来見:大きくは2点です。
1つは自分達のブランドを守るための「抑止力」です。
海外市場の視察を行った際、有名な家電製品の模倣品があふれていることに危機感を持ちまして、それに対抗する役割として知財に期待しています。
もう1つは、自社技術力の「PR」です。
製品の製造自体は海外拠点で行っているので、自社の技術力を証明するための手段として特許が有効なんです。
特許番号を付すことによって、表面上自社の名前だけ付けているのでなく、その中の技術についても自社で開発していることを示すことができます。
4.知財担当者としての悩み
特許庁:知財担当としての悩みはありますか。
来見:多くの中小企業に共通することだと思いますが、費用面が大きな悩みですね。
出願件数が増えると、毎月のように何らかの請求書が出願国から届いて、という状況になります。
つい最近も中国特許1件の更新のタイミングだったのですが、費用対効果の面から社長判断で更新をやめようとなりました。
担当者としては、当時苦労して取った特許を切り離すときっていうのは、箱入りで育ててきた我が子を手放すようで心苦しいところはありますが、背に腹は変えられない。
海外にも事業拡大しようと思ったとき、中小企業はやりづらい部分はあるかなと思いますね。
特許庁:御社は海外展開も積極的にされているということで、どこまで知財に予算を割けるかというのは悩ましいところですよね。業務の難しさという面ではいかがでしょうか。
来見:実は、知財業務に対する難しさというものを感じたことはありません。
というのも、これは我々の思いを理解してくれる信頼できる弁理士が味方にいることが大きいんです。
中小企業は幅広い業務で広く浅くやっていかなければいけない事情があるので、知財ばかりに集中できないし、知財の専門家を1人雇うというのも難しいと思うんです。
少ない人数で知財に取り組むに当たって、良い弁理士に巡り合い、良い関係を構築できれば、業務の難しさ、知財へのハードルは大きく下がります。
お世話になっている弁理士には、技術的な話をスムーズに理解していただけますし、我々の見逃していた視点を指摘していただけます。
私は業務の中で知財の話をするときが一番楽しいです(笑)。
そういえば、商標ではちょっとした反省点がありました。
当社では製品一つひとつに「パリパリキューブ」「パリパリキュー」等と名前をつけているのですが、この擬音の「パリパリ」を「Paris Paris」と表記して海外に出展したところ、あまりウケが良くなかったんです。
それで、JETROやINPIT知財総合支援窓口からの助言もあって、海外では、「Island land」を共通ブランドにしていこうということで戦略を切り替えました。管理費も大きく節約できたと思います。
5.今後の展望
特許庁:日本と海外で異なる戦略でブランド戦略を採られているんですね!今後の展開はどのようにされていくんですか?
来見:今は新機種の「パリパリキューアルファ」の販売に向けて準備しています。何度か仕入れたロットが半日で完売になるなど好評です。
来年の本格販売前は広告も行わないつもりだったのですが、ありがたいことに注目いただいています。
新製品には新しい機構を組み込んでおり、発売日前に出願しなきゃまずいぞということで、必死で特許出願しておいて良かったです。
これまでずっと開発してきてようやく自信を持って「使ってください!」と言いたくなるような技術ができたと思っていまして。しっかり権利化していきたいと思います。
6.読者へのメッセージ
特許庁:来年の販売動向が今から気になりますね。最後に、同じような境遇の方にアドバイスをお願いします。
来見:私のように技術者の延長で知財を担当されてる方ってたくさんいらっしゃると思うんです。
すごくいい技術を開発、研究されて「これは特許出願すべきだろうか?」と思っても、そこで踏みとどまっている方もたくさんいると思います。
そのような中で「相談できる先」を知っておくことは大事だと思います。
私の場合、相性の良い弁理士と連携が取れていることもありますし、INPIT知財総合支援窓口やJETROといった公的支援機関からの助言にも助けられています。
例えば、特許は生産国での権利化に集中し、売るところには商標登録、という方針を採っていますが、これは専門家からのアドバイスに基づいて導き出した戦略です。
考え方を学ぶことで知財の取組に一貫性が出て、上長や経営陣に筋が通った説明ができるようになります。
特許庁:御社の特許を見ると、しっかり考えられて維持・放棄を選択されているという印象は持っています。
来見:おっしゃるとおりです。これは我々の武器で、今後の商品のベースになるような技術に対しては、更新の費用が増えようと絶対更新していきます。
一方、「これは将来的に必要ないよね」というものはスパッと切って身軽にしようと考えています。
ただ、担当者個人としては、権利更新をしないという判断はいつも断腸の思いです。本当に当時の開発の苦労を思い出しますので、、。
1週間のリアルな業務内容
○月曜日 10時
展示会に出展。海外のお客様も来場され、多くの質問が寄せられた。
○火曜日 14時
来年の新機種リリースに向けたパンフレットの作成。製品デザインだけでなく、パンフレットデザインも、初号機以来社員が行っている。
○水曜日 18時
退社間際にSNSのチェック。次の製品開発のヒントにつながる情報がないかリサーチ。好意的な反響が見つかると思わず笑顔に。
○木曜日 13時
海外出願中の商標案件について打合せ。
○金曜日 16時
新商品会議。新機種の次の一手についても並行して準備を進めていく。
あとがき
今回のインタビューでは、シマ株式会社商品開発部 開発研究チームの来見さんに、御自身の経歴や同社初のB to C製品開発までの御経験や知財業務に関する悩み、そして中小企業の知財担当者へのメッセージについてお話しいただきました。
プロジェクト担当者として広範な業務をこなしつつ、その一環として知財にも力を入れてこられた来見さんですが、数ある業務の中でも「知財を考えているときが一番楽しい」とおっしゃっていたのは印象的でした。
「形」となった自社の知財それぞれに格別の思い入れを持ちつつも、限りあるリソースを配分するために、出願や維持を戦略的に考えていらっしゃることもシマ株式会社の特長の一つです。
このような戦略の立案や日々の知財業務に当たっては、信頼できる弁理士や気軽に相談できる支援機関とのネットワークが生きています。
もしお悩みの方がいらっしゃいましたら、まずはお近くのINPIT知財総合支援窓口を訪ねてみてはいかがでしょうか。