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スタートアップで磨かれる言語化力と新たな挑戦!知財の枠を超えた取組

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社は、保有する技術ポートフォリオとパートナー企業が持つユースケースを掛け合わせることにより、世の中に溶け込む製品を開発し、その実装までの道のりをパートナー企業とともに踏破し、さらに製品化・量産化することによって社会に価値を届けることをミッションに掲げています。

今回は、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社知財・法務・広報グループでグループ長を務める、弁理士の木本 大介(きもと だいすけ)さんにインタビューしてきました!


インタビュー


1.入社のきっかけ、日々の業務

特許庁:まず始めに、ピクシーダストテクノロジーズでどんな業務に従事されているか教えてください。

木本:ピクシーダストテクノロジーズは、異なる技術×異なる領域の組合せを同時多発的に展開する「ポートフォリオ型」のR&Dスタートアップです。

SaaS系サービスもやれば、単純な製品販売もやる。To BビジネスもTo Cビジネスもやる。
特許実務に例えると、異なるIPC分類の技術で事業を展開しています。

そのため、複数のスタートアップが集合した連合艦隊のような構図になっていて、僕のグループは、その連合艦隊の全体を俯瞰できる司令塔のようなポジションです。
一つひとつの事業に潜り込むこともあれば、一歩引いて全体のバランスを取ることもある。
それを、特許や商標だけでなく、契約や広報まで見る。そんなプレイスタイルでやっています。

特許庁:木本さんがピクシーダストテクノロジーズにジョインされたきっかけについて、当時の思い出なども交えてお聞かせいただけますか?

木本:「経営者の二人、落合陽一さんと村上泰一郎さんの二人に惚れ込んだ」というのが最大の理由です。

私は前職では弁理士として特許事務所で大企業の特許明細書を作成していたのですが、2015~2016年頃から、スタートアップのお客様が増えてきて、スタートアップのスピード感や文化に興味を持ち始めました。
その頃に落合さんから特許出願の依頼を受けるという形で出会いがありました。

落合さんとの2回目の打合せの際に村上さんも加わって、そこで突然「会社作ったよ」と言われて。「会社を立ち上げたばかりでは大変でしょうから、色々手伝いますよ。」と顧問契約を提案しました。

さらに「何がニーズか分かりませんから、とにかく色々やります!」とお伝えしたら、「そんな風に言ってくれる人を探していたんだ!」と。そこから流れるように進んで、まだ正式に顧問契約も結んでいないのに私のSlackアカウントが作られて、すごくスピーディーに物事が決まることに驚きました。

正直、顧問契約料は割と強気な価格を提示したんですけど、それでも問題なく進んでしまいました(笑)。

特許庁:スタートアップならではのスピード感ですね。顧問弁理士の状態からピクシーダストに転職を決意したきっかけはあるのでしょうか?

木本:落合さんと村上さんから「同じ船に乗ろう」と誘っていただいたことがきっかけですが、何より、この2人と仕事をする刺激的な時間を他人に与えたくないという独占欲があったので、それなら自分が入ってしまえば良いという決断をしました。

落合さんや村上さんという魅力的な経営者と御縁をいただくことは、もう2度目と来ない幸運なことだと感じたのです。それがジョインした一番の理由です。

特許庁:スタートアップの中での仕事は大変なことが多いと思いますが、特に難しかった瞬間はありましたか?

木本:大変なことはたくさんありますが、資金調達のヒリヒリ感は特に印象に残っています。

スタートアップは、資金調達が成功しなければ即会社が潰れるので、調達直前は常に不安でいっぱいです。
資金調達が決まって「おめでとうございます!」なんて言われることも多いですけど、その直前までの不安感ってものすごいんですよね。
なので、資金調達が決まった直後の「おめでとう」は、まだ心が追いつかないんです(笑)。
特許が取れなくてどうしようという感覚に近いですが、特許取得に失敗しても倒産することはまずないので、そのヒリヒリ感の次元が違いますね。

それから、契約交渉も難しかったです。

特許の場合、手続がある程度決まっていて、例えば、特許が取れなくても、補正や審判請求などで次の手が見えるんです。次に切る手札が残されているというか。
でも、契約交渉は一発勝負。この契約が成立しなければ全てが終わる、という緊張感が常にあるんです。
しかも、交渉相手や内容が都度変わるので、前回の成功体験が生かせないケースが多い。
だから毎回毎回ヒリヒリしますし、交渉がうまくいかないときは本当に焦りますね。逆に、僕自身が会社に貢献できていると実感しやすいのも契約交渉だと感じています。

2.業務に対する心得ー大局を見失わないための逆算思考

特許庁:確かに、契約交渉は特許とは違って一発勝負ですから、プレッシャーが大きいですね。そうした状況も踏まえて、木本さんが特に心がけていることはありますか?

木本:仮説を持つことが大事です。仮説思考、逆算思考をするべきだと、自戒も込めて社内で周知しています。これは知財業務だけでなく、契約業務や広報業務にも通じるものです。

例えば、3年後に会社がどうなっていたいかを考え、それに向けて今どんな行動を取るべきかを逆算して考える。そうすることで、今やるべきことが明確になるんです。
だから、常に未来を見据えて、次に何をするべきかを考えながら仕事を進めるようにしています。

事業部の同僚には、契約を飛行機のチケットに例えて説明することもあります。旅の目的、行き先も決めずにチケットを取るか?ということです。

例えば、「おいしい中華が食べたい!」という話であれば、いやいや近くに中華街があるからわざわざチケットを取る(契約する)必要はない、というような話をします。
これは特許でもそうなのですが、契約を締結すること自体が目的化してしまうことが往々にしてあります。本来の目的はプロダクトの社会実装や企業成長のはずです。
これを達成するために、じゃあこのプロジェクトは3年後にどうなっているのか?と問うと、答えがなかったりする。
私自身も眼前の業務で唐突に「これは3年後どうなっているの?」と問われたら、どうしても視野が狭くなりますので答えられないかもしれません。
外野が騒がないと気づけない視点ですから、事業部の外からうるさいくらいに、3年後はどうなっているのか、そこから逆算して今何をやるべきか考えよう、今この契約を締結するべきなのか、今このチケットが必要なのかと、しつこく言い続けるようにしています。

この逆算思考でいかないと、PoCだけが積みあがって、いつまで経っても社会実装に至らない発明が無駄に量産されてしまうと思っています。

3.特許業務と日常業務の共通点ー言語化の力で見えてくる本質

特許庁:木本さんは、社内での広報や法務、人事など、知財業務以外にも多くの役割を担っていますが、これらの業務を通じて得られた知見はありますか?

木本:どの仕事も「伝える」ことが本質だと感じています。

例えば、広報では外部の人に会社のことを知ってもらう重要性や難しさを実感しましたし、人事でも同じように、社内に新しい制度を浸透させることの難しさを感じたことがありました。
どちらも、相手にきちんと理解してもらうための仕事だったと、今では思います。

特許も、審査官や公開公報を読む人に技術を理解してもらうために、それを文字にする仕事です。
社内でも「言語化しよう」というのはよく言っていて、議事録を取ることや、ルールをしっかり言葉にして残すことが重要だと感じています。

審査基準や審査ハンドブックも、実は非常によくできていると感じます。特許事務所にいた頃は気づきませんでしたが、改めて読むと、審査官全体のベクトルをそろえつつ、必要なときに素早く改定できる仕組みが整っているのは、全て言葉にして残されているからだと感じます。

特許書類を作成する作業と、会社内でのプロセス改善やルール作りは非常に似ています。どちらも言葉にして整理し、無駄を省く作業です。

例えば、社内で請求書をどう処理するかのプロセスを考える際にも、言語化することで課題が浮かび上がってきます。特許と同じように、最初はぼんやりしたものを具体的に言語化して、問題を明確にして、改善していくのです。

特許庁:面白い視点ですね。特許業務がそうしたスキルの源泉になっているということですか?

木本:そう思いますね。特許書類の作成をする担当者は、技術を言葉にして、会ったこともない審査官に正確に伝えることに全力を尽くしています。
この能力は、ほかの業務でも非常に役立ちます。

例えば、契約書を作成するときや新しい社内ルールを構築するとき、さらには社内プロセスを可視化するときにもこの「言語化する力」が大いに発揮されるんです。言葉の正確性を保ちながら、同時に伝わりやすさを実現することを生業にしている職種は、世の中にはなかなか無いんだなと感じています。

特許庁:知財業務の経験が広範な業務に応用できるというのは、非常に興味深いです。

木本:そうですね。さらに、言語化の力によって、社内外のコミュニケーションのズレを発見することができます。
この「言語化」を推進することが、全ての業務での課題解決につながっていると実感しています。

一番まずいのは、認識がそろっていると思ったのに、実は全く違う方向を向いているパターンです。
行動に移してからこれに気づくことが多いのですが、失った時間は取り戻せない。実感として、2回に1回ぐらいは認識がずれているイメージです。

4.読者へのメッセージ

特許庁:さて、読者の中には、大企業で働きながら、スタートアップに関心を持っている知財関係者が多いかもしれません。最後に、そんな方々に向けたメッセージをお願いします。

木本:型にはまらず、面白そうな仕事があればどんどん挑戦してほしいと思います。特に、特許や契約などの分野で働いている方々の「言葉にこだわりながらも正確さを追求するスキル」は、ほかの分野でも広く応用できるはずです。

また、私は「知財部」という部署名が適切ではないと考えています。
知財部という名前だけでは何をしているのかわからないんです。知財部を「企業価値向上部」や「ブランド認知獲得部」など、役割を明確に示す名前に変えることができれば、知財人材の本当の価値が見えてくるはずです。
また、スタートアップにはセクションが存在しないため、こうしたスキルが自然に発揮されやすい環境が整っています。

知財以外の業務を経験した上で特許や知財に関わると、特許の存在価値について新たな視点が得られます。スタートアップは人材が少ないため、スピーディーに変化が訪れ、未知の課題に取り組むことが多いです。

そういった環境でもがき続けるうちに、進歩性のあるキャリアが磨かれていく感覚があります。

特許庁:なるほど。まさにコンフォートゾーンを超えろ!というわけですね。

木本:私にとってはスタートアップで働くことがむしろ居心地が良いコンフォートゾーンかもしれません(笑)。

1日のリアルな業務内容


○9時:出社
東京駅近くのオフィスに出社。

○11時:メールチェック
メール、slack、notionの通知のチェック。通知の処理で午前中が終わることも。

○18時:退社
社外の知財関係者とのネットワーキング会食のために、早めに仕事を切り上げる。

○19時:飲み会
仕事終わりにスタートアップ知財担当の仲間たちと懇親会。

あとがき


木本さんとのインタビューを通じて、知財の世界を超えた「言語化」の重要性が浮き彫りになりました。

特許という専門分野からスタートアップの資金調達や契約交渉まで、そのスキルはさまざまな業務で活用され、新たな価値を生み出しています。スタートアップで働くことは、未知の課題に向き合いながら、日々自身のスキルを磨く絶好のチャンスであると改めて感じました。

知財に携わる読者の皆様も、是非コンフォートゾーンを超えて、新しい挑戦に踏み出してみてはいかがでしょうか?

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