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ビジネスのステージを上げるためには「知財の取得と活用」が不可欠!

株式会社ケイ・エス・エムは、プラスチック金型製造を主力とし、さまざまな業界、産業のお客様の開発案件に数多く携る企業です。現在はメディカル事業部(手術器械設計、製造)、販売事業部(各種商品の企画、製造、販売からコンサルティング業務)とお客様の多様なニーズに応えることで、地域やお客様からに必要とされる企業になるべく事業を行っています。
今回は、株式会社ケイ・エス・エム 代表取締役社長の佐藤 伊知郎(さとう いちろう)さんにインタビューしてきました!


インタビュー

1.佐藤伊知郎社長の経歴

特許庁:佐藤伊知郎社長(以下「佐藤社長」)が御社に入社される前から現在に至るまでの御経歴について教えていただけますか?

佐藤:県内の清陵情報高等学校を卒業後、弊社に入社しました。設計や機械加工などの業務に従事してまいりましたが、ものづくりを更に深めていく必要があると感じるようになりました。
入社から十数年が経過した30歳を前に、経済学を学ぶ必要性を強く感じた一方で、独学での学習には限界があると考え、大学院の教授の講義を受けることにしました。その経験を通じてビジネスに関する知識を習得し、その後今に至るまで繰り返し学び続けています。

2.知財との出会い、知財の学習

特許庁:知財についてはどういったきっかけで勉強することになったのでしょうか。また、具体的にはどのように勉強を行ってきたのでしょうか。

佐藤:知財について学ぼうと思ったきっかけは、「自社事業に付加価値を創出したい」という思いからです。
弊社は創業して今期で30期目を迎えますが、10期目に先々代の社長である私の父が亡くなりました。元々の本業はプラスチック金型の製造で、基本的にはお客様から図面をお預かりして請負業務を行っていましたが、先々代社長の急逝後、お客様からの発注を見合わされてしまい、受注案件がなくなってしまったことがありました。
当時、開発案件は対応に時間がかかるためあまり受注していなかったのですが、そんな状況の中、あるお客様が開発案件を非常に多く持て余してしまっていると伺ったため、弊社の強みである提案力を生かし、開発案件への要望にお応えすることにしました。お客様からの「こんなものを作りたい」という要望に対して、当初はサービスの一環としてアイデアの提案を行っていましたが、より付加価値のある対応を行うためには、単価の上昇や受注金額のアップに取り組む必要がありました。最初のうちはうまくいかないこともありましたが、試験と検証を繰り返す中で、徐々に開発案件での成果が得られるようになりました。加えて、開発案件で直面した数多くの提案が知財につながっているということを実感し、知財の重要性に気づくきっかけとなりました。
知財を学ぶに当たっては、大手企業で知財の専門家として活躍されていた方を弊社の顧問に迎えまして、何か疑問点があればいつでも相談できる体制を作ることでその方から多くを学ばせていただきました。

特許庁:外部から専門家に入っていただくというのは大きな判断だったのではないかと思いますが、その方とはどこで出会ったのでしょうか?

佐藤:弊社の事業を通じて形成された人脈の中で出会いました。出会った当初は他社の知財担当として従事されていましたが、5年ほど前に退職されたタイミングで御挨拶の機会があり、これは良い機会だと考えてお声がけしました。

3.自社における知財の考え方

特許庁:御社は2014年から医療領域での事業をスタートさせておられますが、知財活動のスタートとの関係性があるのでしょうか?

佐藤:弊社では、自動車、家電、半導体、安全部品、アミューズメント、現在は半導体分野やカーボンニュートラルなど、様々な領域の開発に携わっていますが、これらの領域における知財の考え方と医療分野における知財の考え方は全く異なります。
その理由の一つは、国内外の医療業界において、新製品を作った後にはPRやCMを打つ宣伝広告や情報発信は用いず、論文や学会における発表が求められる点が挙げられます。開発者はこういった慣例を念頭に置いて、関連する知財を発表の数年前から先行して取得することが重要で、案件によっては権利化や上市までに5年から10年ほどかかることも数多くあります。
 医療領域で弊社が最初に取り組んだのは脊髄領域の手術器械で、背骨と背骨の間にクッションを入れるもの(「脊柱管狭窄症」と呼ばれる病態の手術に関連するもの)でした。これは欧米企業がシェアを取っていましたが、日本の医師からの要望でとある国内メーカーと新たな製品を作ることになりました。
その際、受注先のメーカーから「知財を一緒に取得しましょう」と提案されましたが、結果として、弊社はその知財を共同で取得しませんでした。
医療分野での知財取得は弊社のブランディングにも効果があると考えましたが、弊社の金型事業では、お客様に対する提案を通じた付加価値の提供というモデルを採っているため共同で知財を取得することは基本的に行っていないことなどの理由から、本件の知財は取得を行いませんでした。
弊社では基本的に、知財を攻めの側面で活用しています。具体的には、医療系のメーカーからの開発案件を受注することで実績を積み重ねています。
とあるメーカーから案件を受注した際のエピソードを御紹介します。それは耳鼻科の案件で、その企業がこれまで20年間かけても開発が実現できなかった案件でしたが、弊社は2か月で知財の構築を行い、試作品を完成させました。
この案件は、医療業界だけではなく異なる分野の技術を組み合わせた結果、実現できたものです。この件はその企業の部署内部からも注目を集め、「どこに頼んでいるのか?」という口コミから様々な案件のお声がけをいただくきっかけとなりました。私たちが試作品を2か月で作成したことで、最終的には本件の受注規模は当初額の十数倍にまで成長しました。
このように、知財に関する提案をしながらシェアを広げていく形で、医療分野での実績を増やしています。

特許庁:御社は特に知財を共同で取得したわけではなく、その企業さんに権利を全てお渡ししてその代わりに売上を得るというかたちを採っているわけですね。

佐藤:はい、そのとおりです。ただし、この事業モデルの説明をすると、特許庁や行政に支援機関の方々は「自社でも特許を保有した方がよい」とおっしゃるのですが、弊社の基本的な事業コンセプトは金型事業から続く考えの「弊社へ御依頼をいただく案件での知財自社取得及び共同出願は行わず、代わりに付加価値を提供しマネタイズさせていただく」という自社事業の立ち位置と対象領域を絞って行っています。

特許庁:秘密として開発を行うことによるメリットを享受しているわけですね、御社としての技術優位を保ったまま様々な顧客に提案ができると。御社自身が知財を使うのではなく他社の力をうまく借りながら事業を回すイメージですね。

佐藤:福島県でも医療機器の製造を推進する取組が行われていますが、私たちもその流れに沿って、知財の構築や医療の商流を考慮しながら事業を進めています。先ほど耳鼻科の話をしましたが、弊社では眼科領域の製品や口腔外科領域、心臓外科領域、脳外科の製品も同様のスキームで開発を行っています。現在、様々な領域でテストを重ねており、確実に売上を上げている状況です。

特許庁:そういった検討も、顧問として入っていただいた方と相談しながら今のスキームを作り上げてきたのでしょうか?

佐藤:はい、その方に加えてもう1名お世話になっている方とのお話を組み合わせつつ、弊社の強みを考えつつ改良しながら作り上げてきました。

4.自社での知財活用の実態と教訓

特許庁:J-PlatPatを拝見すると、社長が発明者となっている特許権が二つあります。内視鏡用のマウスピースと、ペット用のIoT犬小屋です。これらの開発の経緯や、現在どのように使われているのかについてお伺いしてもよろしいでしょうか?

佐藤:これは少し笑い話も含まれているのですが、ペット用の小屋を開発した理由についてお話しします。2016年から2017年にかけて、ふとしたきっかけでこの製品を作ることになりました。
この小屋は「(IoT)スマート犬小屋」というコンセプトで、スマホで中の様子を確認でき、クーラーも効くというものです。展示会に出展したところ、とある大手商社とコンビニチェーンの方々が訪れ、「いくらで売ってくれるのか?」という話になりました。値付けについてはあまり考えていなかったのですが、「40万円くらいですかね」と答えたところ、なんと「4万台発注するよ」と言われたのです。私は「やったー!」と思い、こんなことがあるのかと驚きました。
特許も取得し、開発に相当な費用をかけて数億円ほどかかったのですが、結局1台も売れませんでした。その理由は、先方が考えていたビジネスモデルを実現するためには動物取扱業の許可が必要という話になったためです。
弊社は確かにプロダクトを作ることはできるのですが、ビッグアイディアを持っていても0から1を生み出す開発は避けるべきだと考え、教訓として今も社内にはその一号機が保管されています。
 
内視鏡用のマウスピースは本業界内で無名の弊社でも実は、マーケットのシェア1%を獲得できているんです。今も継続的に1%ずつ売り上げている状況です。

5.具体的な知財業務

特許庁:特許や商標を出願しようという判断は、基本的には社長が行っておられるのでしょうか?

佐藤:最近は単独での出願をなるべく避けるように考えていますので、受注するメーカーさんの動きを含めた回答になりますが、技術動向などを考慮しながら、「こういうふうに取得されたらいいのではないか」といった提案を行っています。そのため、あまり多くの特許を取得することはしていません。

特許庁:社長は自社事業の全てを見ていると思いますが、知財にどれくらいの時間を割くことができているのでしょうか?

佐藤:だいたい10%くらいかと思います。最近、私たちが多く関わっているのは第二創業を進める企業です。具体的には、「こんな事業をやりたい」といった相談をいただくことが増えています。それに対して、利用できる補助金などを御紹介し、伴走支援を行っています。
先ほどの御質問に関連して、そういった事業をやりたいという企業が、既存の領域で事業を展開するのは良いと思いますが、スケールさせるためには、まず市場規模を大きく見て、本当にお客様がどのような形でいるのかを考える必要があります。それが可能であれば、知財を活用するという流れで進めています。特に、もともとの医療業界のお客様から「こういう知財を取りたい」と話があった際には、その提案が本当に適切なのかを確認することが重要です。場合によっては、クロスライセンスを取得した方が良いのではないかという提案をすることもあります。
このように、知財取得を検討されている企業に併せて活用しているという感じです。

特許庁:社内での業務にとどまらず、地域の活性化に資するようなお仕事をされているのだなという印象を持ちました。ありがとうございます。

佐藤:苦労話に戻りますが、自分の業務に関してはどうだったかというと、やはりリアルなタスクに対して、知財を学ぶ時間をどう作るかというのは、正直とても苦労しました。
今振り返ると、私がその当時、大学院の教授に学ぶ前の25歳から30歳前半にかけて、営業でいろいろなところを飛び回っていた時期がありました。その頃は車での移動が多かったのですが、今のようにスマホで本を聞ける環境ではなかったですが、何かを聞きながら運転していた記憶があります。そのベースがあったおかげで、学ぶことと自分自身での学ぶ(リスキリング)時間を確保できたと思います。
苦労話というよりも、時間を作って学んだ結果、それが自社事業にも展開でき、現在の顧客へも提案できるようになり、付加価値を生むきっかけになっているのかなと感じています。

特許庁:確かに、基礎があったからこそ、今花開いているということですね。

韓国出張時の一枚。

6.知財活動において重要だと考える点

特許庁:知財の業務を進めていく中で、特に思い出に残っている成功体験やエピソードがあれば、是非教えていただけますでしょうか?

佐藤:先ほどお話しした「ステージを上げる」という観点でのお話ですが、例えば、明日、上場企業の社長と対面で話す機会があるとします。その企業が同業者かもしれませんし、別業界かもしれませんが、様々なケースがあるとして。その際に、「こういうものは安く、こういう感じで作れるんですよ」といった話をすることは、たぶん先方は毎回言われていることなので、担当者を紹介されて会話は終了してしまうと思います。
私がステージを上げると感じたのは、知財の勉強をした上で、製造もでき、知財の観点も持っているという話をしたときです。御社の知財に対して、弊社の強みとしてこういったノウハウを持っているので、ここをジョイントさせてこういう領域に入れないでしょうか?という提案をします。その提案について、「本当にそれができるのか?」という疑問から始まり、今のビジネスにつながったお客様がいらっしゃったことが、一番やってきて良かったと感じる瞬間です。
現在は、手術器械の話も含めて、知財の観点を通常業務に織り交ぜることによって、受注タンクが上がり、付加価値の向上につながっています。

特許庁:知財を含めた提案をすることで、「安く大量に作れますよ」というだけの提案から脱却できるということですね。そういった提案が成功したタイミングについて、今から考えると何年前くらいでしょうか?

佐藤:今から考えると、メディカル事業が始まったのは2014年なので、先ほどお話ししたお客様への提案ができたタイミングは、今から約7年前になりますね。
やはりメディカルでの実績があったことで、「これってこんなにお金になるんだ」という感覚が生まれたのだと思います。7年前くらいに、確かにその一つのステージが上がったような感覚があります。

7.読者へのメッセージ

特許庁:社長の御経験を踏まえ、同じような課題を抱えている読者に対して、また、特許庁に対してメッセージをいただけますでしょうか?

佐藤:これから知財の取得及び構築を考えている企業に一番お伝えしたいことは、「自社の価値=ビジネスのステージ」を上げるためにはそれが非常に重要であるということです。
これまでの顧客と今後も10年、20年、30年と同じビジネスを続けるのであれば、知財はあまり必要ないかもしれません。しかし、産業の縮小や国内外の動向を考慮し、ビジネスを一段階上げて勝負したいのであれば知財を取得すべきです。知財の取得とその活用方法によっては、十分に付加価値を創出できると考えています。
 
次に、生意気にお話ししますと、日本の知財活用だけでなく、世界の知財活用を見た際に、知財がどれほど重要視されているかを意識することが大切だと思います。知財は無形の資産であり、事業の中でどの位置にあるのかを考えるべきです。
私は、知財は事業の中心に置くべきだと考えています。資金やリソースの話もありますが、知財を中心に据えることで、事業がスケールしやすくなると思います。
 
特許庁にお願いしたいこととして、マッチングの話もありますが、そもそも特許を取る目的を明確にすることが重要です。後から特許を取得するのではなく、最初からリスクを考慮して取得することが大切です。
特許権ももちろん重要ですが、企業が考える商品や技術の商標からスタートするのも良いアプローチです。独自技術を持つ企業が、わかりやすいネーミングでアプローチすることで、関係者との連携が生まれ、良い人脈を広げるきっかけになると思います。
生意気な話ですが、特許での事業の進め方についても、根本的な部分を改めて考えることが重要です。難しい部分もあるかと思いますが、弊社は中小企業やベンチャー企業のコンサルティングも行っており、補助金の情報提供などもしていますので、悩んでいる方は是非弊社に御連絡ください。最後は営業になってしまいました(笑)。
【問合せ先:info@ksm-japan.co.jp 事業統括部 宛て】

特許庁:多岐にわたるお話をいただきありがとうございました。

1日のリアルな業務内容

○7~8時:出社
全社員の日報を確認し、昨日の問題点の要約と改良点を朝礼で部内に共有。

○9~12時:午前中の業務
事業部ごとのフォローと改良検討、最近では事業部ごとの人材育成にも注力。

○12時:ランチ(社員感謝デー/月1回)
月に1度、全事業部で近くのお弁当店や飲食店からテイクアウトし、ランチ会を実施。

○13~15時:顧客との商談
基本はWeb会議を活用し、1週間で5社程度(新規、既存含む)の顧客と商談を実施。

○16~18時:経理、人事、総務業務
弊社のバックオフィス業務は属人的でしたが、2024年からシステム化やDX化の取組を進めており、「まずは自分でやってみる!」を念頭に業務を改良中。

○18時:退社
社内の働き方も改革し、残業も月10時間程度に抑える取組を継続中。

あとがき

本稿では、佐藤社長の経歴や知財に対する考え方、そして実際のビジネスにおける知財の活用方法について詳しくお話を伺いまし、知財が企業の成長においてどれほど重要な役割を果たすかが明らかになりました。
また、知財を単なる権利として捉えるのではなく、ビジネスの中心に据えることで付加価値を創出するという視点は、多くの中小企業やスタートアップにとっても参考になるでしょう。佐藤社長の言葉を通じて、知財の重要性を再認識し今後のビジネス戦略に生かしていくことが重要です。
最後に、知財の活用は一朝一夕に実現できるものではありませんが、継続的な学びと実践を通じて、企業の成長に寄与することができると信じています。これからも多くの企業が知財を活用し、更なる発展を遂げることを期待しています。