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若手知財担当が挑む「全員レギュラー」の精神で切り拓く企業の未来

株式会社TBM は、環境配慮型の素材開発及び製品販売並びに資源循環を促進する事業などを国内外で展開するスタートアップです。
鉱物由来やCO2由来の炭酸カルシウムを主原料とする環境に配慮した新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発し、プラスチックや紙の代替となり、資源の保全や温室効果ガスの抑制に寄与できる素材として、10,000以上の企業や自治体で採用されています。LIMEX 素材及びLIMEX製品の普及を進めながら、国内最大級のプラスチックのマテリアルリサイクル処理によるプラントの運営や資源循環プラットフォームの構築・運用に取り組んでいます。「進みたい未来へ、橋を架ける」をミッションに掲げ、何百年も挑戦し続ける時代の架け橋となる会社として「サステナビリティ革命」の実現を目指しています。
今回は、株式会社TBM 経営管理部(所属は2024年9月時点)の市川 実花(いちかわ みか)さんにインタビューしてきました!


インタビュー

1.市川さんの経歴、入社の経緯

特許庁:市川さんは新卒でTBMに入社されて、今3年目ですね。なぜTBMというスタートアップに興味を持ったのか、そのきっかけを教えてください。

市川:私はもともと環境問題をはじめとする社会課題に関心があり、それがTBMに入社した大きな理由です。知財は全く勉強したことがありませんでした。大学では、政治学科で移民・難民政策を学んでいたのですが、そこで「気候難民」という問題を知りました。気候変動によって住む場所を追われる人々が増加することが予測される中、私自身が先進国の豊かな生活を送る中で少なからずその問題の原因を作っているという責任を感じ、その構造的解決に繋がることを仕事にしたいと考えていました。
TBMが開発したLIMEXを知ったとき、「これかもしれない」と直感したんです。LIMEXは、世界中に豊富に存在する石灰石を使った環境に配慮した素材で、プラスチックや紙の代替として世界中に広がる可能性があります。一部の層を除いて、環境のために自分の生活を制限することはなかなか受け入れられがたい面があると思います。しかし、LIMEXが代替素材として既存素材と同等の機能を果たすことができれば、人々が今まで通りの消費活動を行っても環境への負荷が下がっていくことになります。また、各国で現地の石灰石を使ってLIMEXを製造することで輸送時に発生する環境負荷を下げつつ、雇用を創出し、石油資源の有無に左右されにくいものづくりをすることができる。
こういった取組に共感し、私もその発展に貢献したいと考えて入社を決意しました。

2.知財分野との出会い、知財分野を選んだ理由

特許庁:気候変動を背景に、TBMの技術がその解決策になると感じたのですね。それでなぜ知財という分野を選ばれたんですか?

市川:最初は正直、知財について詳しくは知りませんでした。でも、新卒研修で各部門の説明を受けたとき、知財チームの話を聞いて興味を持ちました。知財はただの権利保護ではなく、技術を広めるためのツールなんです。特に、LIMEXのような独自の技術で生まれた新素材が世界中で使われるためには、特許やノウハウが重要な役割を果たします。それに気づいた瞬間、「知財は企業の未来を左右するものだ」と感じて、私もその一端を担いたいと思ったんです。

特許庁:環境問題を解決するための技術の社会実装のツールとして知財が貢献すると捉えたんですね。

市川:はい、そのとおりです。また、海外の事業者に自社特許をライセンス付与するなど、知財を活用したパートナーシップの構築ができれば、それが製品の普及拡大にレバレッジを効かせられるというインパクトを期待できることも面白いなと感じました。

3.知財担当としての苦労話ー営業秘密管理体制整備プロジェクト

特許庁:環境問題から知財まで飛躍があるなと思っていたのですが、うまくつながりました。やりたいことが一貫していますね。では、知財担当を務める中で、苦労した経験などはありますか?

市川:営業秘密の管理体制を整備するプロジェクトを立ち上げたのですが、プロジェクトを進めていく上での社内のコミュニケーションはとても苦労しました。
TBMがライセンスビジネスを本格的に展開していくには、特許だけでなく、工場内のノウハウや製造オペレーションなども守る必要があります。また、その中でどの情報が技術的により価値があるのか、ノウハウの棚卸が必要です。自社の技術的な強みが明確になってはじめて、他社にその強みを提供することができるようになると考えています。そこで、会社の規模も大きくなっていく中で、社内の秘密情報管理をより徹底するためのルール整備を提案し、自分が担当することになりました。秘密情報の管理、というと守りに入っているような印象を持たれるかもしれませんが、TBMが攻めの知財を推進する基盤を固めるために始めた取組です。

特許庁:入社して間もない中でいきなりそんなプロジェクトを、しかも自ら提案したというのはすごいことで、今改めて考えてみても、御社のライセンスで仲間を増やすビジネスモデルでは必須の取組だったろうと思います。

市川:ありがとうございます。当初は、周囲の反応も様々でした。各部門の担当者に依頼しても、プロジェクトの必要性の説明を求める質問や意見が多く寄せられました。もちろん何も反応がないよりは良いのですが、中には鋭い指摘もあり、その返事に困ってしまうこともありました。そのうちに「あれ、何でこれをやるんだっけ?」と私自身が悩んでしまったり…。自分が弱気になっている時に、私が回答するよりも上司から答えてもらった方が納得感も出るだろうと思い、「この(他部門の)マネージャーからのメールに対する返信をお願いできませんか」と、上司にお願いしようとしたとき、お叱りを受けました。「自分が始めたことに責任を持て」と。当初は「なぜ助けてくれないの!?」と不満に思うこともありましたが、そもそもは私がやりたいと言い出したことなのに、「なぜやるんですか?」という問いに担当の私が答えられないのはあり得ないだろうと思い直しました。「説明責任」という言葉の意味を噛みしめる経験でした。多くの人に協力をお願いしている以上、この取組で目指す会社の姿に賛同を得ながら進めなければならないと痛感しました。

4.困難な問題への挑戦

特許庁:それは大変でしたね。どのようにこの問題を突破したのでしょうか?

市川:まずは相手の意見を受け止めて、それでもなお、このプロジェクトの必要性を、まず私自身がしっかりと考え直しました。その上で、何度も推敲をしてメールに返信したことで、理解していだきました。それ以降は、少しずつ社内全体が協力的になってくれて、本当にうれしかったです。さらに、プロジェクトの実行性を高めるために、社内の部長やマネージャー等各チームの秘密情報管理の担当者の方々と1対1で面談を行いました。30人を超える方々とそれぞれ30分の面談をしたので、合計15時間以上に及ぶ対話です。まだ入社3年にも満たない私が、経験豊富な方々に「このプロジェクトがなぜ必要なのか」を説明し、協力を取り付けることは大きなチャレンジでした。

特許庁:「自分がプロジェクトの主役」になるという覚悟が重要だったんですね。

市川:私は今年の社内スローガンである「全員レギュラー」という言葉が好きです。TBMでは、誰もが自分の役割に責任を持ち、主役として行動することを求められます。私も、このプロジェクトを通じて、自分が会社の未来を支える一員なんだという実感を持ちました。特に、30人の方々と対話していく中で、私自身がしっかりとプロジェクトの意義を理解し、主導していかなければ誰も動いてくれないということを痛感しました。
また、営業秘密管理の体制はINPITの支援のおかげもあってプロジェクトが完了できたので、今は運用の定着に取り組んでいます。営業秘密の管理台帳のアップデートはもちろん、人も組織も動きが早いので、変化にも対応して定着させていくことが重要になります。そこで6月を営業秘密強化月間として、全社的に台帳を更新することにしました。また、強化月間では、週に1回、営業秘密にまつわる事件やニュースを題材に、3分くらいで読める記事を全社員に配信することにしました。(ちなみに6月にしたのは、「ひ・み・つ」を数字に置き換えると、1と3と2で合計すると「6」だからです。。)

5.読者へのメッセージ

特許庁:なるほど、面白いです!4月の新入社員や異動のタイミングからしばらくして、手元の営業秘密を見直すというは絶好のタイミングに思えます。最後に、これから知財担当を目指す若い方々に向けて、メッセージをお願いできますか?

市川:知財担当の仕事は、「企業の未来をつくること」と捉えています。例えば、今回お話しした秘密情報管理の件で言えば、何もしなければ、もしかしたら将来に漏えいしてしまったかもしれない自社の重要技術を守ることにつながっています。未来の企業の価値を守る取組です。そして、特にスタートアップでは、誰もが自分で動かなければなりません。私自身、この経験を通じて、自分の意思次第で、年齢や経験に関わらず自分が会社の成長に貢献できるということを実感しました。だからこそ、これから知財の世界に飛び込もうとしている方には、自分が企業の未来を形作るんだという強い意志を持って挑戦してほしいです。

1日のリアルな業務内容

○9時:出勤
TBM本社の机は昇降可能なタイプなのですが、私は立って仕事をすることが多いです。また、机の上には植物を置いて気分をあげています。一日のタスクを整理したり、メールやチャットに返信したりします。

○10時:商標出願関連作業
出願の際には、事業部や広報チームからヒアリングした、その商標の将来的な活用イメージを意識して指定商品・指定役務の選定をします。手続は特許事務所とやり取りをしながら進めます。

○12時:ランチ

○13時:打合せ
自社工場でノウハウの文書化を活性化させるための新しいプロジェクトについて、関係者と打合せをしました。

○16時:研修実施
新入社員が入ったタイミングや各部門から個別に依頼を受けた際、秘密情報に関する研修を実施することがあります。年1回は全社員に対してもインプットの機会を作るようにしています。

○18時:退勤

あとがき

市川さんの物語は、スタートアップ企業における知財担当者の役割を再定義するものでした。「全員レギュラー」という価値観に支えられて、彼女が挑んだ「部長やマネージャー等各チームの担当者30人との対話」は、ただの業務の一環ではなく、企業の未来をつくるための重要なステップでした。
営業秘密管理という取組は、不幸な漏えい事件を予防する「社員を守る」取組とも言えます。営業秘密の侵害事案で元従業員が刑事告訴されるなどの事件も発生しています。事件に関わった当事者はもとより、残された社員たちも心に傷を負うことになります。そのような事態を未然に防ぐためにも、企業が自社の営業秘密を適切に管理することの価値は高いと言えるでしょう。
知財の世界に興味を持つ若者にとって、市川さんのように自らの意志で動き、会社の未来に貢献する姿勢は、大いに刺激となるでしょう。知財という分野は、単なる法律や管理の仕事ではありません。それは、企業の成長を支え、社会に新たな価値を提供するための鍵となるものです。市川さんの物語は、そうした知財の可能性を大いに示してくれるものでした。